なっちがここに

もう大半の方がポラロイド撮影と握手を終えて会場を出られた後、僕も腰を上げることとなりました。少し並べばすぐになっちとの撮影です。握手会のようなものとは異なり、なっちと数名のスタッフの方が控えている、出口のところにある幕の中に一人ずつ呼ばれる形です。


情けないことに、僕の頭の中はもう真っ白になっていました。スタッフの方に呼ばれて幕の中に入ります。なっちがそこにいます。撮影の担当の方に、立ち位置を指示されます。撮影までに、僕はなっちと目を合わせたのかどうかも覚えていません。ただなっちがVサインのポーズをしてくれて、僕も慌てて合わせたのを覚えています。今ポラロイドを見返すと、僕は中途半端なVサインに加え、緊張と嬉しさが極限状態で入り混じったひどい表情です(苦笑)。ああ、自分が情けない…。


その後握手に。僕はどうせ緊張して何も出来なくなってしまうのが目に見えていたから、二つだけ決めていたことがありました。一つは「必ずこれだけは伝えよう」というある言葉。もう一つは、絶対になっちときちんと目を合わせて喋ろうということです。当たり前のことですが、7年間も憧れ続けた人と握手をするとなれば、僕にはそれが精一杯だろうと思ったのです。事実、ほとんどその通りでした。


もう僕はこの上なく緊張していました。小さくて柔らかいなっちの手に触れたとき、さらにそれは拍車をかけることになりました。僕は緊張して真剣になると怖い表情になるという自覚があるのですが(笑)、そんな顔をして二十数センチも上から手を握ってなっちを見下ろしていたなんて、思い出すだに頭を抱えてしまいます。ああ、なんという余裕の無い、器の小さい男なんだ俺は…。


しかし、なっちは微笑んで、優しい目で僕の目をしっかり見てくれました。僕が恐ろしく緊張していて、必死な顔で何か伝えようとしていることを察してくれていました。そして、僕が自分を落ち着かせようと一言ずつ慎重に喋るのを聞いて、いちいち「うん、うん」と頷いてくれました。そして、僕は「これだけは」と思っていた言葉を、なっちに伝えることが出来ました。


「今までも、これからもずっと、なっちの歌声を信じています」


なっちは「ありがとうございます」と言ってくれたと思います。僕が搾り出すように「頑張って」と言い、確かなっちは「ありがとうございます、また来てくださいね」と言ってくれました。僕は「はい」と答えて、なっちに笑顔を見せようと思ったのは覚えています。本当に笑顔になれていたかは、甚だ怪しいのですが。


僕はポラロイドを受け取り、出口に向かいます。そして、店を出る瞬間にふと後ろを振り返りました。すると、まだ次の方は幕の中に入っていなくて、なっちはじっと僕のことを見送ってくれているのです。僕が一方的になっちを見ているのではなくて、僕などというただの一ファンに過ぎない人間の背中を、なっちはじっと見送ってくれているのです。この時の気持ちは、僕のボキャブラリーでは到底表現できません。ただ、本当に本当に、本当に感動したとしか書くことができません。そして振り向いた僕と目が合うと、なっちは深くお辞儀をしてくれました。僕は何も言えず、ただただお辞儀をして、夢か現かという状態で店を出ました。


店の外で先に出ていたS氏と合流しても、僕はもうまともに立っていることができませんでした。大げさなようですが、信じられないほどに足がふらついていたのです。


気持ちを落ち着かせながら、徐々に鮮明になっていくポラロイドを見ました。なっちが僕の左腕に寄り添っているなんて、信じられないことです。でも、確かになっちはそこにいました。なっちの歌を聴き、表情を見て、いつも僕が思い描いていた、いつも僕の心の中に、「ここ」にいたなっち。そのままの人が、本当にその通りのなっちが、「そこ」にいたのです。僕の感じたことが間違っていなかった、という言い方はおこがましくてできません。むしろ、なっちは何と誠実に表現して、振舞ってくれていたのかということを痛いほどに感じました。「そこ」にいたなっちは、確かに「ここ」にいた人と同じ人でした。そして、これからもなっちは「ここ」に居続けてくれるだろうと感じて、本当に嬉しくなったのでした。


以上、アホみたいに長くなりましたが、当日のレポでした。書いているうちに感情が甦って取り乱し気味になっておりますが、どうぞご容赦ください(笑)。
これらを踏まえた感想などは、改めて別の日に書こうと思います。