ドラマコンプレックス『プリズンガール』

最近なっちが出演しているドラマを見ている時に、つくづく思うこと。「なっちじゃない」んですよね。全然「なっち」を感じないんです。もちろん、いい意味で。姿かたちはなっちなんですけど、それでも画面の中の女の子は、例えばこないだは「武田千」だったし、今回は「有村朋美」でした。ファンだから贔屓目に見てしまうのかなあ、と卑屈っぽいことも思うけれど、むしろこれだけ「普段の状態のなっち」をよく知っている僕が言うんだから間違いない、という風に思います。


しかし、「抑圧された状況下で、それでも強く生き抜く」という役柄が本当にハマりますね。id:natsumi-crazy:20060328では「それほど過激な描写は無いだろう」と書いたのですが、いやいや、かなりのモノだったと思います。実際はもっともっと凄まじかったのだと思いますが、それにしてもかなり壮絶でしたね。「体当たりの演技」なんて手垢のついた言葉は使いたくありません。過激なシーンでも、なっちは緻密な演技をしていると感じましたから*1


過激なシーンは多くありました。入所時、全裸にさせられてのボディー・チェックのシーンしかり。巨漢の黒人の女に無理やり恋人にさせられそうになるシーンしかり。僕は「なっちがそんなひどい目に!」という逆上の仕方は全くしませんでした。上手く説明できないけれど、やはそこにいたのが「朋美」であったからじゃないのかなあと思います。もちろん、それとは別に「朋美」に対するシンパシーというか、感じるところはあったのですけれど。


異国の地での、無実の罪での収監。価値観のすべてが転倒する環境。誰も信じられず、それでも「生きていく」ということ。仲間を得て人間同士の絆を回復していく、というのはいかにも予定調和なドラマ的ですが、しかし実話に基づく話であるということがそれを打ち消してくれました。


僕が嬉しかったのは、「平和ボケした日本人」で「お人好し」な朋美がそこにつけ込まれて散々な目にあうものの、経験を重ねて見違えるほどタフになった朋美はやはり「お人好し」を貫いていたのだということ。「誰も信じられない」という情況で、信じることを捨ててしまうのが「強さ」なのではなく、信じることを貫くことが「強さ」なのだという想いがこめられたストーリーだと感じました。


一方で、様々な不条理がリアルに描かれていたことも印象的でした。家族への愛を社会への憎しみに裏返してしまい、凄惨な犯罪を犯した人々。晴れやかな朋美の出所日に、しかし、先に出所した同室の囚人が再び収監されるという報せが届きます。それも、ただ家族に会いたいがためにアメリカに密入国した、という罪で。そしてその不条理は、恐らくは心の中で収拾されることの無いままに、朋美は出所していきます。


歌でも演技でも、僕から見ると最近のなっちのテーマは「リアリティ」だと思うのですが、やはりそれはなっち自身の様々な経験に裏打ちされたものだと思います。良い経験も、辛い経験も、なっちの中ではそれらによってしっかり……なんというのかなあ、「想いの欠片」みたいなものが蓄積されていて、それらを組み合わせて今のなっちが命を吹き込む。そのようにして、歌も演技も創られているように思います。


たとえば朋美は、正確には無実の罪というわけではありません。恋人の素性を確かめないまま親しくなり犯罪に巻き込まれてしまったことは、やはり朋美が世間を知らず軽率であったということにも原因があるでしょう。しかし、懲役2年はいくらなんでも不条理な話です。同情的に見れば、朋美の「お人好し」がとても悪い形で出てしまったのだとも言えます。


うーん。なんというかな、そういう役柄が演じられるのも、今のなっちが持っている財産ですね。とだけ言っておきます。よろしければ、僕の言いたいことを酌んでください(笑)。


が、しかし。演出にはちょっと文句をつけたいです。


まず、言葉。この時間帯は洋画が放映される際も吹き替えになるぐらいですから仕方が無いのかもしれませんけど、あの英語・日本語・韓国語が入り乱れる状態はちょっと異常でした。スタッフ・ロールを見てみても、英語の指導なんかはあまり十分にされていなかったようです。うーん。きちんとした指導と時間さえあれば、少なくとも「1年アメリカで暮らしたレベルの日本人の英語」は、セリフだけに限ればなっちは確実にこなしてくれると思うんだけどなあ。仕方ないといえば仕方ないのだけど、それが残念。それにエイズに関する描写、人種差別の問題、レズビアンの描写なんかも全部中途半端。それぞれめちゃくちゃ重いテーマだから仕方ないけれど、触れるなら触れる、触れないなら触れないというのをきちんとして欲しかったですね。


まあ、僕としてはなっちがこのようなテーマのドラマでいい演技を見せてくれたことで十分です。特に最後のほうの激昂するシーンの、髪振り乱して表情崩して、っていう凄まじい演技。ああいう演技をすることが「特別なことではない」っていう風になっていくといいですね。


すみません、ちょっと体調が悪くて取り止めが無いまくりですが、一応僕の感想はこんな感じです(笑)。

*1:なっち自身「体当たりで」って言ってたけど、まあそれはいいではないですか(笑)